跪いて靴をお舐め

沢山の思い出

沢山の言葉

それはまるで―――

〇きねんび

私は沢山の記念日を持っている。

あなたがおいしいと言ったから今日はｻﾗﾀﾞ記念日(ﾀﾜﾗﾏﾁ)、みたいな。

そこまでこじゃれた、1年経ちゃぁ覚えてません的な記念日なのではなくて、

付き合い始めた日
初デートの日
初キスの日
初めて体を重ねた日
初めて家に来た日
初めての――

いわゆる『初めて』記念日は、ふとした瞬間に思い出す。

例えばそれは、その日が終わる5分前だったり

例えばそれは『一年前の今日は何してたっけ―――って、あ。』みたいな感じだったり

例えばそれは、切ない記憶まで芋蔓式に呼び起こしてしまったり
　

例えばそれは、胸をつくような幸せに溢れていたり。

どんな形であれちゃんと覚えていて

新しい人と新しい『初めて』記念日をなぞっていったとしても

きっと忘れることなく、思い出していくんだと思う。

記念日が沢山あると、思い出さなきゃならないことが比例して多くなって

少し、困る。

思えば無駄に理屈つけて記念日を祝ってた気がする。

焼いたケーキの回数、

開いた包装紙の面積、

期待に満ちた時間、

深まる空気の濃度。

一年前の今日の記念日を

二年前の今日の私は思いやることすらせず

一年前の今日の私は、こんな風に過ごしていることを想像すらしていない。

そして今日の私は―――。

幸せだった過去はいつだってきれいにデフォルメされて

色鮮やかな閃光を放っているけど

今の私はそんなのも全部含んだ過去が作った私。

自信作ではないけれど、きっと不出来でもない。

だから前だけをむいて――。

未来の今日は、なんの記念日なんだろう。