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09.06.14:02 嘘吐恋慕。 |
噓吐恋慕。
N0.1 出会いと嘘
君に出会おうとしたことが、あたしの最大の嘘です。
君に取り入ろうとしたことも、嘘が始まりでした。
何時か其の嘘に、あたしこそが溺れるなんて
そのときは全然、微塵も疑っておりませんでした。
君とであったのは、8月26日、あたしが友達とのドライブを終えた21:17のイタリアンレストランの中だった。
男は5人、すでに一次会を終えてサービスのデザートを食べていた。
見慣れぬ人が、2人いた。
知り合いの男の子に「きませんか?」と誘われて、2時間で帰ろうと思っていた飲み会で
君は隅っこの席で笑っていた。
見知らぬ人のうち一人は、3年ぶりにあう垢抜けた知り合いだった。
「元気だった?」
その問いに「ああ。」と思い出す面影。…があるかどうかといったところ。
「うん、久しぶりすぎてわからなかった。」
当たり障りのない笑顔を振りまいて、いつもよりワントーン高めの声を出す。
そうしているとほら、あたしっていい女に見えるじゃないの。
そこで知り合いの男の子が声をかけてきた
「お久しぶりです。あ、こいつが前はなしてた遠野です。」
「遠野君…はじめまして。」
満面の笑みで話しかけると、照れたように「どうも」と一言言った。
「前はなしていた」印象とはかけ離れた、優しそうな男だった。
一次会はどうやらお開きのようだから、「ねぇ、次に行こうよ。あたしまだ一杯も飲んでいないの。」と促す。
わらわらと店を出て、煩い雰囲気のバーに入った。
「こういうとこ、よく来るんですか?」
「え?ええ。たまにね、友達と。」
誰に聞かれたからわからないくらい混雑していたし、誰だってよかった。
相変わらず君は、隅っこで右手を抱えながらたっていたね。
ただ一人の女の子のあたしを見向きもしないで、笑っていたね。
「マティーニ、2つ。」
あたしと同じものが飲みたいといっていた男がいたから、
「じゃぁつぶしてやろうじゃないの。」と意気込む。意地悪なあたし。
君はかわいく「ショコラマティーニを」といった声に、遠慮がちに「俺も、それ」と声を上げていたね。
マティーニ
ニューヨーク
コスモポリタン
マンハッタン
テキーラ
マティーニ
マティーニ
飲む酒はすべてショートグラスの、強めのカクテル
同じものを二つずつ、目の前の男はもうすでに意識を保てていない。
それを平然と横目で流しながら、あたしはかばんに入っていたパーラメントのライトに火をつける。
カチリ。
「あれ?タバコ吸うの?」
そう聞いてきたのはイケメンと化した年下の男
「ううん、友達のをいただいただけなの。普段はすわないのよ。」
と、上手に吸い込みながらへたくそな言い訳。でもこれが結構受ける。
何せこっちは夕飯食べずに飲んでるんだから、何かを口に入れないとよっちゃうじゃないの。
そんなことを考えながら、ロングのタバコは見る見るうちに灰を落としている。
君の笑顔の裏に、苦々しい思いがあったなんて、そのときのあたしには皆目検討もつかなかったよ。
マティーニ
マティーニ
目の前にいたはずの男がトイレにこもってしまって、店員の目が痛くなってきたために今日はここまで。
185cmの巨体を無理やりトイレから引きずり出してエレベーターに載せているあたり、「男のこって便利だなぁ」って思った。
そうして1階に下りて185cmを抱えた男二人がタクシーに乗り込むと
ドアをばたんと閉めて行ってしまった。
「…え?」
唖然。
今日あたしは、買ったばかりのABAHOUSEの13cmハイヒールを下ろしてきたばかりだ。
終電を当に逃したあたしは、当然のようにタクシーで帰ろうと思っていた。
何よりも歩くと靴が傷むし、足は痛い。
あたしも一緒に乗せて言ってもらう予定だったのに…。
信じられない、と小さな声でつぶやいて、残った男2人と歩き始めた。
そのうちの一人が、君だったね。
あたしはハイヒールを脱ぎ、素足でコンクリートの上を歩き始めた。
「ちょっと、いいの?」
もう一人の男が言ったから
「大丈夫。足が痛いし、何よりも靴が痛む。だって、いい靴なのよ?」
家までの距離は1.4キロ。途中まで歩いたところで、何も変わらないかも知れないが。
君はそんなことになれていないのか、「じゃぁ…俺が靴を脱いではだしで歩けば…」と真剣に考えてつぶやいていた。
思わず笑ってしまった。へんな気遣いだが、ちょっぴりうれしい。
コンクリートはひんやりしていて気持ちよかった。
君は医学生、5年生であたしのひとつ年下。
浪人の長かったあたしと違って、君はストレートで難関大をA判定で通った。
身長は168cm、体重はかなり細め。凝り性。
嫌いな食べ物は基本ないけど、この前ホテルで食べた数の子のわさび和えはまずかったんだっけ。カレーが好きだけど、辛いものを食べるとすごく汗をかくから食べないほうがいいんでしょ。趣味はお菓子作り。そこそこ程度かと思いきや、マカロンまで自分で作っちゃうのは正直引くわ。
家の手前でもう片方の男と別れた。向きが逆方向だからだ。
私が靴をはくと、176cmになって君を見下ろすことになる。
最近ヒールのない靴を履くのは、そのせいかな。なんて、たぶんうそ。
「遠野君は…。」
当たり障りのない話で、すぐ家の前。
大して君に興味はなかった。
でももう少し話していたかった
なんたって、寂しかった。
人肌が恋しくて、君を引き止めた。
ここで立ち止まるつもりなんて、なかった。
「遠野君の家まで、送るよ。」
その後の一言なんて、あたしにとっては何の意味もなかった。
「だって、もう少し一緒にいたいんだもん。」
君の笑つた顔を真正面から見たことがありませぬ。
君は照れてしまつて、直ぐに顔をあたくしから逸らしてしまうから。
本当は、真つ赤だつたのでせう?
そんなこと、あたくしにはたんとお見通しでございました。
そんなあたくしの顔も、君には見せられぬ表情を落としていたのでございます。
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